おでかけの日は晴れ

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殺されたミンジュ

待ちに待ったキム・ギドク監督の。
非道にも大勢の男たちに急襲され、殺されてしまった女子高生、ミンジュ。
これは、最近の邦画にもよくある、多分それは復讐に由来するのだとしてもその動機の詳細だけが最後まで明らかにされない残忍な殺人ゲームの話だ、と思って観ていた。
金にも女にも不自由していないイケメンの男が複数の人間にいきなり拉致され、残忍な拷問を受ける。観ている私はあまりにその残忍な制裁に時々目を背けながら、きっとこれはミンジュを殺したことに対する報復なのだ、ならば聞きたいことだけ聞いたあとは同じく死を以って報復されるのか・・・と思っていたが、その男は拷問の後、路上に放り出される。
更に次から次へとミンジュの殺害に加わった男を拉致し、拷問を加え、その殺害について署名させた後は彼らを解放していく。そのうち、拷問を受けた1人の男は改めて過去の己の罪の認識のため自殺してしまう。そのことについて拉致し、拷問を加えた側の男の1人は、その罪を主犯格の男に問う。

この復讐は、殺されたミンジュに対する復讐は、相手に「死」を与えるということが最終目的ではない・・・の?
その時点で、とても意外な気持ちがしていた。

6人の男と1人の女。
1人はリーダー格の男。あとはレストランでバイトをしていたり、アメリカに留学歴があり英語も話せるが母国語が下手な上に学歴が却って邪魔をしていつまでも就職できない青年とか、友達に金を貸したせいで自らの家財を没収した男や、暴力を振るう男と同棲している女や・・・。その彼らとミンジュとの関係性は明らかにされないが、どうやら彼らは個人的にミンジュを知っているわけではなく、リーダー格の男が開設しているストレスや不満を抱えた人間が集うウェブサイトで出会ったということのようだった。彼らは正義や大義名分の名の下で他人に暴行を加えることで自らのストレスを解消しようとしているようだった。
その7人の姿が1人ずつ描かれていく。同時に、ミンジュを殺し、今、謎の集団に拉致され、暴行を受ける側の男たちも1人ずつ描かれていく。女子高生を殺したあの殺人も、自分の意思ではない、上からの命令で、そしてそれは世の中のために必要だったのだ、ということを訴える上位階級にいる男たち。そして、これがその世の中を変えるための行為だとばかりに彼らに拷問を加えて行く、底辺に生きる人間たち。私は何度もキム・ギドク監督の過去作「春夏秋冬、そして春」を思い出していた。この答えの無い、ただ繰り返されていくことの空しさ。真実のありかの無さ。この世界で生きていく場所がどこにも見えない、その苦悶。監督の叫び声さえ聞こえてくるような映画だった。

そして、最初に拷問を受けた男を演じた、キム・ヨンミンの8役!
拷問を受けた男のほかに、拷問を加える7人の男女の生活に密接に関係する男を、キム・ヨンミンがすべて演じている。女に暴力を振るう男と、弟を追い詰める兄を、友達の財産をすべて失わせた男を、そして主犯格の男の海兵隊時代の後輩で現在は僧として生きる男を・・・。それがまるで、すべての悪は、それを為すのは悪人のような男であり、そして世捨て人の優しさを瞳に宿した僧になって生きようとする男でもある、つまりどのような人間も死を以って報いられるほどの悪を為すことがあるのだ、というようなことを表しているように思えてならない。そして、その悪に直面したとき、私たちはどう生きていけばいいのか・・・ということを・・・・。