おでかけの日は晴れ

お休みの日は映画を観におでかけ。時折、旅行。

「リズと青い鳥」

多くのアニメ作品の中の少女たちは、「わたしたち」ではありませんでした。

「わたしたち」は、あんなに可愛くはなかったし、可憐ではなかったし、キラキラでもなくキャピキャピでもなく、けれども自分を特別だと思ってて、けれど突然そう思えなくて絶望して、自分は結構いいひとだと思ってたのにやっぱりいやなやつだよなって思えたり、そういう、そういう、なんていうか決して映画やドラマの中には出てこないもっと――――――、普通のおんなのこ。

でも「リズと青い鳥」の女の子たちは、まさにそういう普通のわたしたちが描かれている作品でした。

 

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なんか、すごくないですか?この絵。

すごくリアルに描かれた教室の机と椅子と床と譜面台。

その背景のリアルさとは質感の違う、陰影や肉体の比率は省略されたりデフォルメされた絵で描かれた、楽器を奏でる細身の女の子ふたり。

そして窓の向こうは、またその少女たちの絵とはタッチの違う、色彩鮮やかで、ちょっと昔のアニメを思わせるような絵。

「ずっとずっと、一緒だと思っていた。」というコピー。

観る前からなにごとかの不穏さは感じていたけれども、観終わってからこの絵を観ているだけで何故だか涙が出てきて困る。

机と椅子だけのこの静謐な場所は、彼女たちの心を守る場所でもあり、育てる場所でもある、でも閉じられた鳥かごだったのか。ここにいる彼女たち。そしていつかここを出て行く彼女たち。その時間を思い、私はなんだか泣けてくる。

 

(もしもこれから観るのならば出来れば何も、予告編も何も観ず、もちろんこれも読まずに観てほしい。)

 

鎧塚みぞれが、学校の校門の近くで座って待っている。

同じ高校3年生、吹奏楽部フルート奏者の希美が来るのを待っている。

希美がやってくる足音に耳を澄ませている。

みぞれは希美の後ろを歩く。希美の揺れる髪や彼女が下駄箱から取り出してぞんざいに床に落とした上履きや脱いだ靴や先に階段を登る足をずっと見ている。

この時の音が、ピアノの音がぽつり、ぽつりと零れるように響くのだが、まるで言語化されずに想いだけがあるみぞれの心情のようだ。

みぞれは希美のことが好きなんだなとわかる。その目線の先にあるものは女の子ならではのフェチだ。女の子は誰かを好きになるとこんな風にその人を探し、こんな風に静かに見つめている。それを丁寧に描いていて、すごくいいと思うのと同時に少し苦しい気持ちになる。みぞれの思いにつらい予感がする・・・。

 

この映画を観にきた人たちの多くが「響け!ユーフォニアム」2期を観ているだろう。だから「みぞれと希美」というだけで不穏な何かを感じてこのスクリーンの前に臨んでいたのではないだろうか。

テレビ版「響け!ユーフォニアム」2期の前半でみぞれと希美は登場した。物語の主人公は北宇治高校吹奏楽部1年ユーフォニアム奏者・黄前久美子。初めての夏合宿で久美子は2年・3年の先輩たちに翻弄されることになる。かつて退部したフルートの希美が復帰したいとやってきた。それに反対する副部長のあすか先輩たちや激しい拒否反応を示すオーボエ奏者のみぞれらに久美子は振り回されるのだ。

ちなみにこの時のみぞれは2年生。中学時代、自分を吹部に誘ってくれた希美が唯一の友達だった。しかし希美は1年生のときに部内のゴタゴタに嫌気がさし、みぞれに黙って退部し、みぞれはそのことで激しいトラウマを抱えることになったのだ。希美の登場でみぞれは心を乱し、演奏にも集中できなくなっていく。しかしこの合宿で間に入ることになった久美子の奮闘により、みぞれと希美は和解をしたのだ。それはもう「ヨカッタヨカッタ」となるべきところだが、そこに不穏な余韻を残していったのが、2期後半のメインになっていく「あすか先輩」だった。彼女は久美子に対してだけ微妙な反応を残すのだ。そこに描かれていたみぞれは「繊細・臆病・孤独」という閉じた女の子だったが、その彼女を評して「ずるいわね」とあすかは呟くのだ。

 

そういったことがあるから、明るい表情で前を歩いていく希美と彼女を熱い目で見つめ続けるみぞれなんて不穏な予感しかなかったのだ。

 

彼女たちは高校3年生。その年の吹部のコンクール自由曲は「リズと青い鳥」。その作品の中ではオーボエとフルートの掛け合いがあった。希美は「まるで私たちみたい」と言って「リズと青い鳥」の絵本をみぞれに渡す。ひとりぼっちで暮らすリズの友達は森の動物、そして青い鳥。そんなリズをずっと見ていた青い鳥は少女の姿になってリズの元にやってくる。明るくて奔放な少女と一緒に暮らしはじめたリズは世界の色が一新し、生活が楽しくなる。しかしある日、少女は青い鳥の化身だと知ってしまう。鳥は冬になったら暖かい地へ渡らないといけない。リズはまたひとりぼっちになってしまうことを悲しみながらも少女と別れる決心をするという物語。

みぞれは、希美と離れることを恐れている。だから「私は青い鳥を逃がしたりできない。閉じ込めておく」と思う。希美は「ハッピーエンドがいいよね。青い鳥もまた帰ってきたらいいんだし」と思っている。ふたりとも、リズがみぞれで、青い鳥は希美だと思っている。

 

コンクール曲「リズと青い鳥」。オーボエとフルートの合奏の息が合わない。それはみぞれの解釈のせいか。フルートの先輩として後輩に慕われる希美を見ていてまたひとりぼっちになるのではという不安。更に彼女は自分自身のことが決定できない。自分が何をしたいのかわからない。希美が吹奏楽部に誘ってくれたから自分はここにいる。音大を勧められたけどそこを目指すのかどうかも決定できない。でも希美が同じ音大に行くというなら私も行くと言う。そんな彼女のことを1年前、あすかは「ずるいなあ」と感じていたけれど、みぞれは自分がずるいだなんてきっと思ってはいない。後輩のトランペット奏者 高坂麗奈は「先輩の本気の音が聞きたいんです!」とみぞれにつめよるが、「自分の本気の音」がまだみぞれ自身に聞こえていない。

そんなみぞれに、木管指導者の新山は言う。

あなたが青い鳥の気持ちになって考えてみては、と。

孤独で、青い鳥を手放したくない思って震えている女の子ではなく、愛情を持ちながらも外へ羽ばたっていく一羽の青い鳥を思い描いてみてはどう、と。

音楽室に入ったみぞれ。みなそれぞれの楽器を構えている。みぞれは「リズと青い鳥」第3楽章。そこを通してください、と言う。静かに歌いだすみぞれのオーボエ。それはやっと生き生きと、自由に、空へ飛び立っていくようで、そこに後ろから希美のフルートが美しく絡みあっていった。

そして、そこで希美は、きっとみぞれ以上に決定的に知った。羽ばたっていく青い鳥がみぞれだったのだと。残されたのは自分のほうだと。希美のあの涙は、演奏中の涙はなんだったのか。他の部員はみぞれの演奏に感極まったのだろう。しかし希美はそれだけではない。自分とみぞれとの力量の違いに気付いてしまったからではないのか。

 

希美は、ずっと無意識だけどみぞれのことを見くびっていた。

私がひとりぼっちでいるちょっと風変わりなみぞれに声をかけてあげた。中学の吹奏楽部では私は部長だった。私はフルートが好きだし、そしてその才能だってある。勿論、みぞれのオーボエもうまい。けれど私たち、それほど違いはないんじゃないかな、と。しかし、今の時点で、彼女の力量はみぞれの演奏をなんとか支えるのが精一杯のところまでだと気付く。愕然とした彼女も実は自分が何をしたいかなんてわかっていなかったのだ。いくら後輩に慕われていようともみぞれについてこられるような自分もないし、そしてここから先もみぞれと共に歩いていこうという気持ちもない。

みぞれはずるい。自分で何も決定をせず、ずっと好きだといいながら私の後ろについてこようとするみぞれはずるい。

希美はかつて吹部をやめたときと同様、再びみぞれの前を歩くことをやめようとする。

  

才能を前にした少女たちにとっての現実の残酷さ。

「大好きハグして」って言われて拒否されて、つきだした手が空に残る。

少女たちはいつも必死で、恋をしていて、みじめで、自分のずるさに気がつかなくて、そして何かを知っていくことはとても残酷で、そして世界だと思ってたものが3年間という時を過ごす鳥かごであったこととか、

あのときの儚さ。あのときの残酷さ。

そういったことがただただ丁寧に描かれている作品だと私は感じました。

それが、この映画を観ててあんなに泣けてしまうポイントなのかな。

リズと青い鳥」第3楽章を演奏するシーンでは、私はもうなんだか泣けて泣けて。私は結構こっそり静かに泣くことを得意としてるんだけど、この時ばかりは演奏が終わった途端にもう嗚咽がもれそうになるほど泣いてしまいました。曲の美しさ、みぞれのやっと自由になってひとりで飛び立つことを決めた表情、演奏に感極まる部員たち、そして自分の力量に気付いた希美の悔しさ。それらが誰のモノローグもなくただ音の中で見事に表現されていたと思います。

 

響け!ユーフォニアム」2期の最後、卒業式でのあすか先輩は、泣く後輩たちに「また来るから!」と言ったけれど、私はあすかはもう来ないと思いました。彼女は大学生になってもいつまでも先輩面して高校の部活に顔を出す、そのような人ではないからです。

そして、この「リズと青い鳥」で希美はハッピーエンドという言葉を口にするし、みぞれと希美も再び仲良くなったようだけど、彼女たちの人生はエンドどころかまだこの先は遠く、大学に入ったみぞれは真に旅立っていくんだろうなあと予感します。もう希美についていくだけの生き方はやめて。そのとき、かつてあった大切な「好き」は時の中にゆるやかに溶けていってしまうかもしれない。

そこは「高校」という特別なかごの中だから。

かつて普通の高校生の女の子だった人たちに観てもらいたいと思った映画です。


『リズと青い鳥』ロングPV