「君の名前で僕を呼んで」
『君の名前で僕を呼んで』(Call Me by Your Name)
監督 ルカ・グァダニーノ
脚本 ジェームズ・アイヴォリー
出演者 エリオ/ティモシー・シャラメ、
オリヴァー アーミー・ハマー、
エリオの父 マイケル・スタールバーグ
予告編では、Sufjan Stevensによる“Mystery of Love”という曲にすっかりやらられてしまってました。これが流れるだけで何故か泣ける。
“Mystery of Love” by Sufjan Stevens from the Call Me By Your Name Soundtrack
以下ネタバレあり。観る予定の方は観ないほうがヨイです。
17歳のエリオと24歳の大学院生のオリヴァー。
観ながら、この映画の中の彼らを見つめながら、正直言っちゃうと「あー、ほんとに若いってことは性欲に振り回されるってことだよなー」なんつーことをも思ってたのは、まさに私が年を取った証拠。昔はそんなこと思いもしなかった。登場人物と一緒に触れそうな距離にドキドキしたり、ゾクっとしたり。でも大変残念なことにこの年になるとそういう感覚から距離が出来て、エリオもオリヴァーも彼らを慕う女の子たちも自分の中の性欲でいっぱいいっぱいになっていることを「あー・・・」みたいな感じで眺めていた。
勿論、映画はとても良くって、エリオの恋の始まり、どうしていいかわからない戸惑い、不安、初めてのキス・・・、などを一緒にドキドキして観ていたんだけど。そして最後の別れも・・・。
でも、今の私に一番響いたのは、エリオの父のセリフだった。
エリオが同じ男性であるオリヴァーに恋をしたのは、エリオの母も父も気付いていた。さらに、エリオのためにひと夏の思い出、もうすぐエリオたちの前から去るオリヴァーとのふたりだけの時間を作ったのも彼らの父母だった。
当事の多くの親たちは許されない同性への愛(映画の時代は80年代。かつては同性愛は犯罪とみなされていたし、犯罪ではなくなっても精神異常者とみなされる風潮があった)に対し大きな反発を見せただろう。しかしエリオの父は「私たちはそのような親ではない」と言う。そしてエリオの父の長いワンカットでの長セリフ。これがほんとうに良かった。
エリオを聡明だと言う。オリヴァーのことも聡明だ、そしてふたりとも善良だと最初に言う。聡明で善良だから二人の恋愛を一時の過ちとして封印しろと言うのかなあと思っていたら、そうではなかった。
エリオに、この恋の痛みを忘れようとしなくていいと言う。いくらでも泣いていいと言う。恋する気持ちを抑えたり忘れようとすることで心はどんどんとすりへっていく。しかしそれでは生きていくうちに体も心もすりへってしまう。感情を抑え込まず、恋も痛みも悲しみも感じることが生きていくことの喜びだ、と彼に静かに伝える。そして、恐れずに彼との友情を、友情以上の関係を結べたその経験は素晴らしいことだと肯定するのだ。何故なら・・・エリオの父はそう出来なかったから・・・。
夏の日のオリヴァーとエリオの別れに、その悲しみを包むエリオの父の言葉に、そしてその冬のオリヴァーとの本当の別れの悲しみに、すごく打たれた映画だった。
それにしても。
はああああー・・・。
エリオを見ながら「性欲ってやつは・・・」と思った私はかなり心が磨り減っていたよ・・。