おでかけの日は晴れ

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『3番線のカンパネルラ』と「ゲイではなくて」問題

京山あつきという作家の『3番線のカンパネルラ』を読んだ。

BL。

BLとはなんぞやというと、すごーーーく大雑把に言えば恋愛を中心とした男性同士の物語であり、そこには性描写が含まれる。含まれるというかジャンルとしてかなーり必要とされている。

いや、それはあくまでもBL作品の傾向である。そしてその観点からすれば、『3番線のカンパネルラ』には性描写はとても少ない。

主人公の加納は洋服店で勤めている。前の彼との別れをずっと引きずっている。前の彼から言われた言葉を思い出しては自分自身を否定し、新たな人間関係に恐れ、人との距離を置いている。たまたま電車の中で出会った男子高校生を心の中でカンパネルラと呼び、その存在に少しずつ癒されてる。そして同時に、洋服店との店長が緩やかに加納に近づいてきて、元来恋に落ちやすい加納は店長に恋をしていく・・・。

 

人を思うことに対する恐れ。それと同時にどこか自意識過剰であり、ちょっとしたことで心が揺らいだり、そしてふっと誰かに恋をしてしまうこと。そんな加納の心の動きは人によってはとても共感できるものじゃないかな。

そういう部分もとても素敵な物語だけれど、後半にとても大事なことが描かれている。

 

加納は店長ととても幸せなセックスをする。そのシーンは本当に幸福感に満ちている。その幸福な夜の余韻の残る朝、ふたりはリラックスして笑いながら話をしている。

店長は「男性とは初めて」と言う。加納は「僕は男性としかしたことがない。女性とは無理だった」と言う。

店長は同じくその店に新人で入ったゲイの男の子に思いを寄せられた経験があり、そして加納と寝たことで「僕はゲイにモテるのかな」と思う。「いやー、僕と付き合うなら店長もゲイでしょー」と言うと店長は軽く「え? いや僕は違うよ」と言う。

それを聞いた途端、加納はいきなり冷や水を浴びせかけられたような気分になり、目に涙をためて泣き、そして怒るのだ。

 

私の友人で、そしてBL作品を愛するゲイの男性たちが、BL作品の中で登場する

「僕はゲイではない。けれど人として君が好きなんだ」

という言葉に傷ついてると言う。私はそのことを多くのBL好きの女性に知ってもらいたいなと思ってるし、私も友人たちのその気持ちをまずは真摯に受け止めたいと思う。

BL作品には確かに「男とか女とか関係ない。君だから好きなんだ」とか、そういうセリフがよく出てくる。友人たちは、その根底には実はゲイ差別がある、と言う。

正直言えば彼らからそれを聞いたとき、私は俄に信じられなかった。私が元々、創作物、特に二次元としてのBLが好きと言うわけではなく、多分、子供の頃から実際の同性愛者やトランスジェンダーの人たちに対して興味と、それからある種の愛情があったためかもしれない。ところが彼ら自身もBL作品を愛しているにもかかわらず、実際に会ったBLを愛する女性たちから酷い言葉を受け、排除された経験があり、彼らは本当にそのことに傷ついている。ドラマやマンガの中にそのセリフが現れるたびにその時受けた心の傷を思い出し、トラウマになっているそうなのだ。

何故そのようなことが起きたのかと考えてみた。BLを愛する女性たちの世界はホモソーシャルであり、そこにはゲイといえども実際の男性を拒否したい、ということなのかもしれない。物語の中の美しく、または切ない物語とキャラクターを愛していて、そのことをBL好きの女性たちのみで共有することを良しとするものの、生身のゲイの男性とはその思いを共有できない、という気持ちがあるのではないか。

しかしそれとは別に、私はゲイ差別ではなく、「ゲイではなく君が好き」という発想は、女性には「新しい自分になることが好き」ということと「その恋愛の唯一無二性を願う」というところがあるのではないか。それで、

ノンケ男性が男に恋をした

もしかしたらそれは一過性のもので女性に戻るのではないか

いいやそうではない

確かに僕はゲイではなかった。でも君によって変わった。そして君(だけ)が(一生)好き

ゲイではないが君が好き

 

と、こんな感じで1人の男性がある1人の男性に出会うことで大きな変節を迎え、そして彼らは一生結ばれる、という物語をBL好きの女性たちは愛しているのではないかと思うのだ。

 

私はゲイの友人たちに伝えたい。BL好きの女性で、「ゲイでなく君が好き」という言葉をさらりと入れている人たちの中の殆どの人たちに、ゲイ差別がないことを私は信じてると。

そしてBL好きの女性たちと話したい。心の中に、『私が好きなのはBL作品の中だけで、現実の同性愛者やトランスジェンダーの人たちは私には関係ない』って思ってはいないかと。そしてちょっと立ち止まってその気持ちに気付いてほしい。この『3番線のカンパネルラ』を読んで、加納の涙のわけについてよくよく想像してみてほしいと思ったんだ。

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