おでかけの日は晴れ

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『ヤクザと家族』と『すばらしき世界』

少し前に『ヤクザと家族 The Family』を観て、今日は『すばらしき世界』を観た。

どちらも、平成以降に成立した暴力団対策法以降のヤクザの話だ。

『ヤクザと家族』は藤井道人監督。

とにかくこの作品はエモい。

ヤクザ社会は、男性が主だったメンバーによる疑似家族的構成、つまりはバリバリのホモソーシャルの世界。それがいいとか悪いとかではなく、もうそこはそういう思想で培われた世界なのだ。だからこの映画に出てくる女性は私には誰一人として共感できないよ。ここは男のプライドをかけ、そして生きるか死ぬかの世界だから、か弱き女を巻き込んだり自らの弱点にしたくない、それがまあこの世界の男たちの言い分ですよね。そう言いつつ彼らは、都合よく女を使ったり甘えたりするわけで、そんな男たちを許す女が3人登場する。これもいいとか悪いとかではなく、きっと女にも事情があるし、そしてそういう世界に惹かれていく女も実際にいるのだ。その男・その女を、藤井監督はウェットに描いている。舘ひろしを見る綾野剛の瞳。その二人を見る北村有起哉。ヤクザ以降の暴力の世界を生きる磯村勇斗。とにかく全員の瞳は異様に熱く濡れている。男たちのラブシーンなわけよ。また、最後の綾野剛のシーンだが、どこかで野垂れ死ぬより、またはなんとか長生きするより、男同士の世界で共に生きてきた男の腕の中で死ぬことは間違いなく圧倒的な幸福、と思わせられるもうひとつのラブシーン。圧倒的な男優陣のエモさ。さらにこの映画の最後を締めくくるmillennium paradeの「FAMILIA」という曲のエモさが、気が付いたらガンガン強く殴られて頭フラフラになるぐらいのエモのパンチ!実は最後まで飽きはしなかったし、後半に引っかかるところはあれども面白く観ていたのだけれども、この音楽でいきなりとめどもなく号泣してしまった。ここでこの映画がどうとか世界観がどうとか全部吹っ飛ばされた。


millennium parade - FAMILIA

こういう絵面とかね。彼岸に立っているかのような男たちのさ。

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さて『すばらしき世界』は西川美和監督。

殆どを刑務所で過ごし、もう二度と刑務所には戻らずカタギとして生きていくことを誓った男に役所広司

この作品もヤクザと社会を描いているし、役所広司を取り巻く人々は、仲野太賀・橋爪功・六角精児・北村有起哉と、こちらもホモソーシャルな世界観かと思わせるがそうではなく、長澤まさみ梶芽衣子キムラ緑子がそれぞれきっちりと描かれている。そしてさすがは西川美和監督だと思うのは「ゆれる」から一貫して、善と悪のあわいを描いていることだ。善とか正義、そして悪という二元論ではなく、もっと曖昧なものについての視点や描き方がとにかくうまい監督だと思う。特に後半の、三上の目に映る人々の印象が二転三転するシーン。善人だとか善人によるすばらしい職業とか、そういうものもなく、そういうものの中に当たり前の顔をして存在する暴力、虐げられる者とその理由、様々なものが複雑に絡み合って人の手足を縛っているような。それが私たちが生きている世界。不器用な生き方、とか、実は優しい人、とか、そういった定型の言葉で人を語れない。そういうことを思う映画だ。そういうものを描くのが西川美和監督は本当に長けている。

この作品の中の太賀くんが、いつもながら素晴らしい。どの作品の中でも彼はいつも際立っているが、この作品を観ながら、ただの一介の観客である私でさえ、彼の俳優としての人生に嫉妬してしまうほどのいい演技を見せてくれる。

出番は多くはないものの、長澤まさみも、最初の電話の声だけで存在感を示している。最近の長澤まさみはなんだかほんとすごいよね。太賀くんを叱責するセリフにすごくリアリティと真実があり、突き刺さってくる。

とにかくいい作品だった。

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