おでかけの日は晴れ

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『Lovely Writer』が提示しているもの(後編)

今、ちょうど日本ではLGBT法案で紛糾している最中ですが、数多くのBLドラマを制作している台湾やタイの制作側や出演している俳優たちのほうが日本の議員よりもよほどこの問題に関しての意識を日々アップデートさせていることがよくわかります。

さて、タイBLドラマ『Lovely Writer』が提示しているもの。

前編は以下に書きましたが

mioririko.hatenadiary.jp

後編を書きたいと思います。

★ちょっと、「すね毛」についてなど

えっと、まずはすね毛問題ですね。

私はBLでいう「攻・受」という概念にちょっと違和感があるのであまり使いたくないのですが(セックスにおけるタチ・ネコはわかってるつもりですが)実写BLの多くは、いわゆる受の男性の足がみんなつるつるですよね。実を言えば私はつるつる好きです。SaintくんやGunくんの足がつるつるしてるの、すごく好きです。ただ、友人のゲイ男性諸氏からすね毛があるほうが良いというご意見をいくつか聞きました。これはもう好みの問題なのでいいんですけど、そういえば『Lovely Writer』のGeneはすね毛、あるんですよね。たまに顎のあたり、髭の剃り跡も容易に見てとれます。

すね毛とか、大したことじゃないかもしれない。ですけど、ゲイカップルのどちらかを女性の代替として描かれることに私は拒否反応を起こしてしまいがちでして、この作品は、NubsibとGeneをちゃんと男性として描いていること、そして「嫁」呼びがないところにものすごく好感が持てます。

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(Ep8のBTSより。お手入れとかしてないすね毛のある足なのよ)

★カミングアウト問題 その2

カミングアウトに関しては前編にも書きました。

Ep4ではカミングアウトを迫る友人たちと口を閉ざすGeneが描かれています。友人たちは友情の証としてのカミングアウトを迫っているようで、どうもそこにはGeneに対する友情や理解というよりも、自己の承認欲求のようなニュアンスが感じられました。

さてEp9とEp10で描かれたのは、家族へのカミングアウトでした。

それぞれの立場を元に、このドラマでどう描かれたのか見ていきます。

GeneとNubsibの場合

家族へのカミングアウトに関して最初に積極的だったのはNubsibのほうです。そしてGeneも「もう秘密にしたくないんだ」という点でカミングアウトを決めました。それをするにあたり、ふたりちゃんとお互いの合意の上、というところが大事なポイントです。

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そして・・・ああ恐ろしい、こんな両家族全員の前で・・・。家族に対してトラウマのある私はこの絵面だけでビビります。(ちなみにもしも私だったら、家族に言う言わない、そのどちらにせよ理解を求めず、言ったら言ったで言いっぱなしで逃げる、を選びそうだわ)

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最初に口にしたのはGene。そしてすぐさまそれを補足して話すNubsib。NubsibがそっとGeneの手を握るシーンに泣きそう。

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Nubsib兄・NuengとGeneの兄・Japの場合

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Nubsibの兄、NuengはずっとナチュラルにNubsibを見てきたため、彼の頑固さ、したいことを遂行していく能力、そして彼の愛情がどこに向かっているかを知っている、Nubsibに対する最大の理解者です。理解者であるからこそ、極めてナチュラルに思っていました。両親にカミングアウトすべきだと。そしてそのことで両家の親がフリーズしてしまったことに一番動揺しているのもNuengだったに違いありません。

Geneの兄・Japは多分、これまでずっと自由気ままに生活させてくれていた両親の中で暮らしてきた人のようで、GeneとNubsibのことはNubsibからの電話などで気付いてはいたけれども特に何かをしようとはしなかった人のようです。ふたりの関係に反対する理由もないし、カミングアウトすべきだとも思っていなかったのではないでしょうか。ただ、このことをきっかけに家族が揺れ、そして父親とGeneの間に新たな関係が構築されたのを見て、自分も動き出そうという意思が生まれたかのようでした。

 

Geneの母親とNubsibの母親

Geneの母親、Runもライターのようです(Ep6より)。彼女は「タイドラマにおける性の多様性」という記事を書いていたりします。BL作品もよく見ているようです。その彼女がGeneとNubsibが付き合っていると聞いてものすごく動揺していることが私には不思議でした。(そうなんだよな・・・。彼女は 腐女子というわけではないのだから・・・。私だったら息子のカミングアウトとか、付き合ってる彼と一緒に来たとかという事態があったら「ごめん、おかあさん今、目がキラキラしちゃった❤」って言ってしまいそう)

Runは動揺するのですが、息子と、そしてパートナーである夫の魂の幸福を何より選びます。夫が結婚以前に男性と付き合っていたらしきことはきっと知っていたのだと思います。それでも最初から家族として寄り添って生きることを選んだのでしょうし、年を取っていくに従い、その気持ちは更に強くなっていったのではないでしょうか。夫婦の繋がりは性愛ばかりではないのです。

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Nubsibの母OrnはNubsibを厳しく躾けた母親でした。早くにNubsibを海外留学もさせています。Nubsibのことは勿論、幼いころから知っているGeneのこともずっと気にかけてくれる愛情深い人です。その彼女もNubsibのカミングアウトを聞き、動揺しました。これに対してどう考えてよいのかわからないようです。しかし夫の意見を聞き、それを素直に受け入れることのできる女性でした。

 

Nubsibの父親Watの場合

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自身の会社を経営するNubsibの父親Watは、息子が俳優であることをよくは思っていないようですが息子の意志の強さもよく知っていて明確に反対はしていません。Watが俳優である息子に望むことは、自分の会社のイメージを損なわないことでした。

両家の家族が揃っての会食では妻たちがBLドラマの話を昨今のトレンドとして盛り上がっているのを聞き、Watは笑いながらくだらないと一蹴。彼にとって同性愛を取り巻くあれこれはどれもリアリティのない遠い出来事でした。だから息子のカミングアウトについては単純にショックを受けました。しかし彼はすぐに息子を認めることを選びます。多分彼は、LGBTについて理解はしていません。ビジネスマンであるWatは、俳優である息子がゲイであることとそれが及ぼす会社にとっての評判についてすぐさま頭を巡らしました。その上で彼がもっとも大切なこととして選んだのは息子の自主性と自立だったのだと思います。

WatがNubsibと話をするとき、自分勝手に話すのではなく、ひとつひとつ、妻Ornを見ながら、彼女の意思を確認するようにしてNubsibと話す、という姿勢が興味深かったです。Watを強権的な男として描きませんでした。それが、Nuengの優しさやOrnの強さ含め、バランスの取れた「家族」の形を成立させているように感じました。

 

Geneの父親Teepの場合

TeepはGeneの子供時代からNubsibと仲が良すぎることを懸念していました。両家族との会食でもただひとり、GeneとNubsibに疑念の目を向けていたのはTeepでした。

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しかし、ただ偏見のために反対しているわけではないことがこのあとわかります。

Teepは若いころ、男性と付き合っていたことがありました。

やっとGeneと向かい合い、話をするTeep。どこか映画『君の名前で僕を呼んで』を思い出しますが、あの映画の父親よりもTeepのほうが悩みは現在進行形だったように思います。当時のTeepの恋が壊れた原因は、どうやら同性愛を許さない社会の圧力だったようです。

TeepはGeneに問います。「今は昔より同性愛に寛容だというが、本当にそう思うか?」と。彼が恐れているのは息子が社会から非難されたり軽蔑されたりすることでした。さらにTeepは問います。「恋愛はふたりだけのものではない」と。私自身は「え、当事者だけの問題でいいじゃん」と思ってはいます。ただ、Teepの言葉は確かにその後、この物語に関わってきます。すでに俳優としての人生をスタートさせているNubsibと、小説家のGene、ふたりはすでに「社会」と密接に関わりを持っているからです。そこでこれから立ち向かわねばならない様々なことへの覚悟があるのか。Teepは両家族の中で誰よりもリアリティのある問いを投げかけてきます。頷くGeneに向かって、彼のその気持ちと正直さを羨ましいと言いつつ「もっと強くなれ。乗り越えて行け。今の気持ちを大切にしながら」と言い、Geneをずっと支えていくことを誓います。さらには、このことでTeep自身も救われていったのではないでしょうか。過去の想いとは決別せずに大切なものとして心の中に残しつつ現在の家族を愛する、自分のこれまでの人生を丸ごと肯定するという方法で。

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様々なBLドラマにカミングアウトに関するシーンがよく登場します。中でも私は『Dark Blue Kiss』『Why R U?』が心に残っているのですが、『Lovely Writer』では友人・家族含めその受け止め方や反応を、いろんな立場やいろんな感受性と共にすべて違うものとして描き分けたことがとにかくすごいと思うのです。

 

★社会の中で生きていること

タイBLの多くは学園モノで、その世界は主に恋愛中心。それほど社会は描かれてはいませんでした。『Lovely Writer』では社会について描かれていることも大事なポイントだと思います。作家Geneと俳優Nubsibを取り巻く世界は、出版会社・俳優マネジメント会社・ドラマ制作プロダクションなど様々です。

その中でも、作家志望HinとGeneの会話は、ドラマ本筋の恋愛からは離れているけれどもとても心に残る内容で素晴らしかったです。セックスシーンの描写について悩むGeneに、Hinが編集者として投げかける言葉。そして小説を書くHinへのGeneからのアドバイス。表現に関わる者たちの苦悩にも触れているところもこのドラマの大好きなポイントです。

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ところで確か、マンガ家よしながふみさんの対談集『あのひととここだけのおしゃべり』の中で、「BLは職業マンガたりうる」って言葉が出てきたように記憶してるんですけど。これ、深く頷いてしまいます。なぜなら正直、どれほどの女が社会で活躍してるんですかって話ですよ。『Lovely Writer』作中で女性の比率は多いです。マネージメント会社社長Tam、AeyのマネージャーTiffy、ドラマのプロデューサーFah、Geneの担当編集者Bua。作中のドラマ「Bad Engineer」制作スタッフも女性の数は多いです。ところが実際、ドラマのBehindシーンをみると、このドラマの実際の制作現場はやはり男性が圧倒的に多いです。残念ながらこれが現実なのです。で、BLは男性同士の世界が描かれている分、そこに彼らが存在する社会も加わり、それで「職業マンガ」にもなりえるというわけですよね。つまり、今のこの世界において、BLとは表現の幅や可能性がとても広いジャンルだと思うんですよ。

 

★やわらかなハグシーン

『Lovely Writer』では、GeneがNubsibに心を許した9話以降、とてもやわらかくてあたたかいハグシーンがたびたび登場します。そりゃまあどんなドラマでも登場人物たちは様々な理由でハグしあったりするのですが、このお互いの安心感ややわらかさを表現してるのって、なかなか無くない?と思うんですよね。ふたりの演技力と共に、共演者同士の関係性を培っていくタイドラマならではだと思うんですよね。

大変長くなりましたが最後に、いくつもある最高のハグシーンのうち、Ep10から。

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この、『Lovely Writer』のタイトルやOPイメージで使われている色を連想させつつ、男は濃い色または寒色系、女は淡い色または暖色、みたいなイメージにも疑問を投げかけるような彼らのシャツの色。

そしてNubsibのペパーミントグリーンは海の色のようで、GeneとNubsibの着ているピンク色は陽に映えた空の雲の色のようで、もうほんと美しいシーンです。

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(写真は「WETV」より)