不在を見つめる物語。「A Chance to Love」
子供の頃からつい最近まで、死んだらまた生まれ変わりたいなんて思わなかったなあ。生まれ変わったその未来は、温暖化だとか戦争だとか、生きていくのがとてもしんどい世界だったらどうしようって、子供の時はそんなことをよく思って、「神様、今回限りの生で結構です!なむなむ!」なんて祈ってた。でも最近は「もしも死んだらまた人間に生まれ変わりたーい!」って思うんだよね。だってまたタイドラマ観たいじゃん。私よりずっとずっと若い彼らがこんな楽しい作品作ってるんだから、生まれ変わってまたそれを楽しみターイ!とすごく無邪気に思えるんだよね。ありがターイ!
さて。今現在、EP9まで視聴している「A chance to Love」。クライマックスを目前として感想を書いていきます。
「A Chance to Love」2020年9月~ 全13話
監督 New Siwaj Sawatmaneekul
原作 MAME
出演
- Plan Rathavit Kijworaluk as Can
- Mean Phiravich Attachitsataporn as Tin
- Perth Tanapon Sukhumpantanasan as Ae
- Mark Siwat Jumlongkul as Kengkla
- Gun Napat Na Ranong as Techno
- Title Kirati Puangmalee as Tum
- Earth Katsamonnat Namwirote as Tar
- Yacht Surat Permpoonsavat as Pond
- Samantha Melanie Coates as Bow
- Meen Nichakoon Khajornborirak as Tul
- Boss Thapanat Athikompokin as Keen
- Jump Pisitpon Ekpongpisit as Job
- Est Ravipon Sangaworawong as Gonhin
- Kris Songsamphant as Technic
- Praeploy Oree as Lemon (出典:Drama Wiki)
「Love by Chance」 の2期である「A chance to Love」。
「Love by Chance」 は完全にハッピーエンドの物語とは言えませんでした。でも登場人物たちが皆それぞれ、何かを得た物語だと思っています。あの物語の中でもっとも幸せな愛情を手に入れたのがAeとPeteでした。そして確かにあの物語ではTinの思いは叶わなかったし、TumとTarの思いは行き先が見えないままでした。しかし、それまでの閉ざされた世界の中、TinはCanという明るい光を見つけ、Tarも先に歩いていこうと、Tumはそれを見守っていこうと決めたことは確かだったと思うんです。
さて、その2期であり、1期の設定に改編が加えられた「A chance to Love」は、不在を見つめている物語、だと思います。
- みんな、失われてしまったものを見つめている
- 愛って、何?
- 失われたエロスと・・・
1.みんな、失われてしまったものを見つめている
物語はサッカーの試合から始まります。
彼らは試合に負けました。
「We lost」
このLostは勿論、負けたという意味ですが、彼らはLost、喪失をそれぞれに抱えています。
Can
やれるだけやった。努力した。それでもどうにもならないことはいくらでもある。
負けたくない。失いたくない。でもその思いが叶わないことなどいくらでもある。
Canは泣く。
彼は今、人生の中でなすすべもなく失う、という経験に初めて直面しているのでしょう。
ひとり泣いているCanを見守っていたTinが現れ、彼の肩をそっと抱き、慰めます。その時、Canは直面しているもうひとつのことを思い出します。
Tinと友達ではだめなのか。友達と恋人の違いはなんなのか。
Canはずっと考え続けていましたが答えはまだ出ていません。それでも彼が気付いたことは、Tinとは離れたくない、自分はそう思っている、ということでした。
数か月前、Tinからの告白を受けたCanはただ戸惑っていました。
Canは友人のAeを見ています。Peteを失って荒れたり泣いたりしているAeを。Canは、恋が人をこんな風にするのなら、恋なんてしたくないと思っていました。
Ae
その頃のAeは。あんなに幸せだったはずのAeは。
大学の中はPeteとの思い出に溢れています。この夜のグラウンドはPeteに告白しようとして先に「Aeが好きです」と言われた場所。しかしもうここにふたりで待ち合わせることも叶いません。Peteと別れてしまったのだから。Aeの手首にはまだ、Peteが作ってくれたブレスレットがあるのに。
Aeは、あのとき隣にいた、今はいないPeteを見つめて、泣いているのです。
Peteは「Aeのために」という思いで、留学を手段として彼の元から姿を消したようです。でもそれは一体、誰のための、どんな思いだったのでしょう。Aeの生活から喜びも楽しみも奪われ、彼は大好きだったサッカーからも遠ざかり、ただひとり泣いたり酒を飲んだりする生活を送るばかりです。
悪友のPondたちの力でなんとか悲しみから抜け出し、やっと生活を立て直したAeは、自分の目に映るPeteのいない日々を写真に撮り、Facebookにアップしています。Peteがそれを見るかどうかはわからないけれど、AeはそうやってPeteにまだ愛していると伝えているのでした。
Pond
PeteのルームメイトのPond。あのおせっかいで、女にだらしがなく、スケベで、でも実は友達思いだったPondの顔も暗く沈んでいます。彼もまた、失われしまった光景を虚ろな思いで見つめています。それはルームメイトのAeと、そして他の友達との騒がしく楽しかった日々です。しかし今、Aeは心を閉ざしてしまい、あの散らかった部屋を満たしていた楽しかった時間はもう、ありません。
TechnoとKengkla
サッカー部部長のTechnoは学生生活最後の試合中にケガを負い、そして彼らのチームは負けました。来年、この場所に自分はいないのです。その悔しさを見つめるTechnoですが、彼の心中にはもうひとつ、どう処理していいのかわからない感情がありました。弟の友人、Kengklaのことです。
「Love by Chance」作中では、Technoに恋しているKengklaがストーカー行為をしていることが描かれています。そして最後に、KengklaはTechnoが酔って意識不明の隙をつき、あくまでもTechnoもそれに合意したふうを装って実は半ば強引に一度きりのセックスをしています。Technoはその行為を許してはいませんが、諦めずに慕ってくるKengklaに対して気持ちは微妙に揺らいでいます。
Kengklaは、欲していたTechnoとの関係を、一夜のセックスで失いかけています。無邪気だった時間はすでに失なわれてしまいました。今、どれほど愛を言葉にしても、どれだけ近づこうとも、Technoから拒否されています。
試合に負けて泣くTechnoを慰めるKengklaですが、愛を口にした途端、突き放されてしまうのです。
Tin
Tinが見ているものは、失われてしまった愛情です。子供のことから唯一信頼していた義兄を、義兄の裏切りにより失って以来、彼の心の中には孤独と不信しかありませんでした。そんな中、出会ったCanの存在はTinに新たな感情をもたらしました。それでも最初、Tinが望むものをCanは拒否し、Tinは傷つきます。
それでも、TinはCanを待ち続けます。
2.愛って、何?
Canは、Aeに聞きました。愛って、何?と。
Aeは答えます。他の人にとって愛がなんなのかはわからない。けれど自分にとっては、愛とはPeteのことだと。
そう聞いても、Canにはそれがいいことにようには思えませんでした。淡々とそう言うAeにCanは無神経なことを聞いたことを悔いるような気持ちで謝ります。そして思うのです。「何故自分はそこに痛みを見てしまうのだろう」と。
恋とか、愛とか、本当にそんないいものなの?本当に楽しかったり幸せだったりするものなの? こんなにみんなつらそうで、泣いてばかりいるのに。心も苦しくなるばかりなのに。Canはきっとそう思っています。それでも皆、恋の痛みは恋でしか癒すことはできません。
「Love by Chance」ではCanが描き切れていなくて、ただ幼い男子として登場していました。「A Chance to Love」では、Canの幼さはそのままかもしれませんが、恋という感情を知っていったり、大切な友人の苦しみを目の当たりにしていたり、Tinの苦悩と、自分に向けられるTinの慈愛の表情から少しずつ成長していくさまが描かれています。
特に私は、この根源的な「ねえねえ、愛って何?」という問いかけがとても好きです。
彼らは、自分の隣にある不在を見つめています。その場所はもう、空いたままなのか。しかし、様々な出会いの中で、きっと彼らは大切なものを取り戻していくのでしょう。そう信じて、私はこの物語を見守っています。
3.失われたエロスと・・・
私は「Love by Chance」で使われていたBGMがとても好きですが、「A Chance to Love」でも同じ曲が使われています。AeとPeteの切ない系シーンでよく使われていたピアノ曲は、今期ではTechnoとKengklaのシーンでよく使われています。Ep8の冒頭もそうです。
ただ、AeがPeteに対して、またはお互いに欲情するシーンで使われていたBGM、あれが今回は無いのね。。。あれ、すごく好きだったのに・・・
思春期の男子たち。好きって言って、キスして・・・。さあ、どうする、その先は。どうしたらいい・・・?抑えきれない胸の高まり、同時に戸惑い、それらを本当にAeとPete、いえ、PerthとSaintは見事に演じたと思うし、そのバックであの曲はとても煽情的な気持ちを伝えていました。
今回は想像以上のTinとCanの展開を迎えたわけですけど、それは残念ながらエロスではなかったわ・・・。Canが求めているものは、たぶん性愛ではなく、信頼関係だから。
でもそれも含めて、今回また描かれていなかったものを思いながら、私はシーズン3をちょっと期待しちゃってる。
大人になったAeとPeteの物語を。
新たな関係を作り直すTechnoとKengklaの物語を。
そしてTumとTar、彼らはどうやって生きていくのか。
グラウンドで体育座りで泣きはしないけれど、なんの約束もないけれど、Peteの不在を見つめるAeの気持ちで、シーズン3を待っています。